2022年11月30日、JPモルガン・ナスダック米国株式・プレミアム・インカムETF【JEPQ】の分配金が発表されました。は0.5463ドルでした。
前回2022年11月の分配金は0.6813ドルなので、先月との比較では19.8%減です。
2022年12月2日の終値は43.95ドル、これまで7回の分配金合計は3.2767ドル。1年換算すると5.6172ドル。利回りは12.78%になります。
直近の分配金0.5463ドルを1年換算して出した利回りは14.92%です。
【JEPQ】は2022年9月後半より、日本のネット証券で取り扱いが始まりました。どんなETFなのでしょうか。
設定は2022年5月なので、7カ月ほどしか経っていないので、情報は少ないです。データを使いながら、【JEPI】と比較したりして、本質に迫っていきます。
序盤は【JEPQ】の分配金についてのデータを紹介
前半は【JEPQ】とライバルETFとの基本データを比較
中盤は、JEPQの基本情報、組込銘柄やセクターなど、【JEPQ】の中身に迫ります
後半は、【JEPQ】とボラティリティの関係などを比較します
最後に、いま【JEPQ】買ったら将来どのくらいの分配金になるか予測します
【JEPQ】の分配金と株価の関係は?
【JEPQ】は毎月1日頃が権利落ちです。そこで、先月末の株価と分配金を比較します。株価は50ドルでスタートして、現在44ドル付近まで下がっています。
分配金は7度支払われました。最大が0.6813ドルで、最小が0.3397ドル。結構バラつきがあります。株価と分配金の関係は、設定から日が浅いので何とも言えませんね。
設定来の株価と利回りは?
株価と利回りの比較しましょう。株価が青い線です。ナスダック100が軟調ということもあり、緩やかながら下がっています。
利回りを過去12カ月の分配金から算出した「12カ月利回り」が、赤い線です。分配金を支払いはじめてから1年後から登場します。ただし、毎月分配型の【JEPQ】は分配金がまだ7回しか出ていないため、算出できません。そこで、設定来の分配金の合計額を1年換算して、利回りを出しました。
現在2022年12月2日の「12カ月利回り」は12.78%ですね。
現在の分配金を12倍して利回りを計算したのが「直近利回り」です。これが黄色い線です。毎月分配金が異なりますのでデコボコです。12月は先月より分配金が減ったので、直近の利回りは14.92%です。
【JEPQ】のように月々の分配金の差が激しい場合は、この2つの利回りを見比べて、現在どのくらいなのかをイメージするといいかもしれません。7回しか分配金が出ていないので何とも言えませんが、現時点では利回りは10%ぐらいですか。
ライバルETFとの比較
【JEPQ】とライバルETFの比較です。4つのETFの関係や大まかな違いはこんな感じです。
一番左の列は対象がナスダック100です。【JEPQ】のライバルになりそうなのが、同じナスダック100をカバードコールするETF【QYLD】です。
左から2列目の【JEPI】と【XYLD】は対象がS&P500です。
上段の【JEPQ】と【JEPI】はJPモルガン・アセットマネジメント社の商品で、80%が低ボラティリティ銘柄で、残りの20%がELNという仕組債で、コールオプションを売ります。
下段の【QYLD】と【XYLD】はグローバルX社のカバードコールETFです。原資産を保有しながら、コールオプションを売ります。
大まかに言うと、JPモルガンとグローバルX社のETFは似ていますよね。原資産の割合が80%と100%、コール・オプションの売りがアウト・オブ・ザ・マネーかアット・ザ・マネーの違いはあります。
経費率はJPモルガン・アセット・マネジメント社の【JEPQ】【JEPI】が0.35%、グローバルX社の【QYLD】【XYLD】は0.60%なので少し差があります。
ライバルETFとのデータを比較
運用総額は【JEPI】が最も多く約2.2兆円で、【QYLD】は約8800億円です。【JEPQ】は設定されたのが2022年5月3日で、まだ7カ月ほどしか経っていないため、運用総額は1100億円ほどです。2022年に入ってから新興市場が低調なため、売れ行きは今ひとつですね。
過去1年分配金から算出した利回りは、現在株価が低迷しているため、いずれの銘柄も高くなっています。通常はナスダック100がボラティリティが大きく、利回りも高いです。そして、純粋なカバードコール戦略も利回りが高いです。なので通常時の大まかな利回りは【QYLD】【RYLD】が12%、【XYLD】が11%、【JEPQ】が10%、【JEPI】は9%ぐらいが目安と言えそうです。
【QYLD】は、2021年12月の分配金にキャピタルゲイン分配金が出ました。そのため、現在「分配金利回り(12カ月)」は通常より高い状態です。表内の背景がオレンジ色のところです。
分配金利回り(12カ月)は過去1年の分配金から算出したものです。ただし【JEPQ】はまだ1年分が支払われていないので、これまでの分を1年に換算しました
分配金利回り(直近)は直近の分配金が今後1年続いたものとして算出しました
カバードコール系ETFの利回り推移
カバードコール系ETF【RYLD】【QYLD】【XYLD】【DJIA】【JEPI】の利回りの変化を見てみましょう。利回りは直近の分配金を1年換算したものから算出しました。株価は月末のものです。
※2021年12月に【RYLD】【QYLD】はキャピタルゲイン分配金を出しました。これを含めて計算するとイメージしづらくなるので、2021年12月分配金は【RYLD】【QYLD】はNAVの上限1%で計算しました
カバードコール系ETFの利回りを過去1年分配金から算出
先ほどのグラフだと、月によって分配金の変動があるため少しイメージしづらいかもしれません。過去1年の分配金から利回りを算出しました。
引き続き株価が低迷しているので、利回りはかなり高くなっています。実際は【RYLD】【QYLD】が12%、【XYLD】【JEPQ】が11%、【DJIA】【JEPI】が10%ぐらいが目安ですかね。
※このグラフも前項同様に、2021年12月分配金は【RYLD】【QYLD】はNAVの上限1%で計算しました
【JEPQ】はどんなETFか?
【JEPQ】は、2021年秋に日本の証券会社で取り扱いの始まったJPモルガン・米国株式・プレミアム・インカムETF【JEPI】のナスダック100版です。
以下が運用会社であるJPモルガン・アセット・マネジメントの公式サイトに記載されている【JEPQ】の概要です。
米国大型成長株(主にQQQ採用銘柄)とオプションの販売を組み合わせ、オプション・プレミアムと株式配当から毎月の収益を得ることを目指します。
【JEPQ】の約80%は、大型成長株(主にナスダック100採用銘柄)の低ボラティリティ銘柄。この部分で株価の値上がり益を狙います。
20%を上限に、エクイティ・リンク・ノート(ELN)が組み込まれています。これは、株式に連動してインカムを狙う仕組債の一種です。ナスダック100指数の1カ月のアウト・オブ・ザ・マネーのコール・オプションを売るデリバティブです。原資産よりも権利行使価格が高く設定されているので、値上がり益も多少狙えます。
ナスダック100のカバードコール戦略を行う【QYLD】と少し似ています。ただし、こちらはアット・ザ・マネーなので、原資産と権利行使価格が同じです。
【JEPQ】は基本的にELNでインカムゲインを狙い、大型成長株の部分でキャピタルゲインを狙う、いいところどりのETFとも言えます。
エクイティ・リンク・ノート【ELN】とはどんな商品か?
【JEPQ】に組み込まれている【ELN】は、ナスダック100指数に連動してインカムを狙う仕組債の一種です。アウト・オブ・ザ・マネーのコール・オプションを売るデリバティブです。
参考までに、日経平均リンク債を例に挙げます。以下のようなルールです。
期間、クーポン(利率)、ノックインレベルを設定し、ノックアウト(早期償還)判定を定期的に行います。発行体はオプションの売りのポジションを取るので、オプション料がクーポンとしてもらえますね。
(1)?(2):保有期間中にノックアウトを上回った場合は、額面価格(行使価格)で早期償還となります。
(3):償還時までノックインとノックアウトの間で推移すれば、高いクーポンをもらえます。このケースを目標としています。
(5):保有期間中にノックインを下回った場合は、償還時の価格で支払いとなるので、マイナスになるケースが多いです。(4):一度ノックインを下回った後、償還時の価格が額面価格以上になった場合は、額面価格(行使価格)での償還となります。
【JEPQ】は誰が運用しているのか?
【JEPQ】は、アクティブ運用のETFです。インデックスに連動しているわけではなく、ポートフォリオ・マネージャーの手腕が重要です。
ナスダック100の中からボラティリティの小さい銘柄を選別して組み入れ、20%弱はELN(エクイティ・リンクノート)の中から、いずれかの金融機関が発行したものを選びます。
そのため、【JEPQ】を運用しているのはどんな人なのか気になりますよね。
公式サイトに掲載されている【JEPQ】のポートフォリオ・マネージャーのデータです。ハミルトン・ライナーという人が中心となって運用しているようです。35年ほどのキャリアがあり、
1987年以来、バークレイズ・キャピタル、リーマン・ブラザーズ、ドイツ銀行などで米国株式および米国株式デリバティブの運用に携わってきた人のようです。
下は【JEPI】のポートフォリオ・マネージャー。こちらもハミルトン・ライナー氏が運用しています。
ポートフォリオ・マネージャーが担当しているファンド
現在ハミルトン・ライナー氏が担当しているファンドの一覧です。30個近くありますね。ちなみに、ポートフォリオ・マネージャーと、ファンド・マネージャーは同じ意味です。
【JEPQ】のセクター比率は?
【JEPQ】と、ナスダック100ETF【QQQ】に組み込まれている銘柄のセクター別の組込比率を比べます。
【JEPQ】の約8割を占めるのは米国大型成長株(主にQQQ)の中から低ボラティリティ銘柄です。残りの最大2割がELN(Equity Linked Note)です。左の円グラフの背景が黒いところがELNです。現在18.1%です。
【ELN】の分を差し引いて考えると、組み込まれているセクターの比率はほぼ同じです。
【QQQ】のルールでは、ナスダック市場に上場している金融セクターの銘柄は対象外です。【JEPQ】には金融セクターが入っていますね。ただし金融の部分はMMFです。違いはそれぐらいです。
【JEPQ】の株式上位組込銘柄と【QQQ】の違い
下の表は【JEPQ】に組み込まれている株式の上位10銘柄です。大型成長株(主にQQQ)の低ボラティリティ銘柄が中心です。
表の右端の2列はナスダック100ETF【QQQ】の組込順位と比率です。上位7番目まではかなり似ていますが、8位以降は微妙に異なっています。
【JEPQ】の全組込銘柄数が83なので、【QQQ】の121と比べてやや少ないです。また、【JEPQ】の上位10銘柄の比率は40%なので、かなりの集中投資です。
【QQQ】は上位10銘柄比率が約49%なので、さらに集中投資です。ボラティリティを低くするために、【JEPQ】は【QQQ】よりも分散させているのかもしれません。
【JEPQ】に組み込まれているELNは?
【JEPQ】に組み込まれているエクイティ・リンク・ノート(ELN)です。ナスダック100に連動した仕組債で、全部で5つあり、合計比率は18.1%です。
表の左から2列目のティッカーの「NDX」というのがナスダックに連動する仕組債(ELN)。ちなみに、【JEPI】の場合は「SPX」というS&P500に連動する仕組債(ELN)になります。
ELNの利率(クーポンレート)はどのくらいか?
下の表はJPモルガンアセットマネジメントの公式資料に記載されている内容です。【JEPQ】と【JEPI】の上位10銘柄の中から、ELNのクーポンレート(利率)を比較します。
2022年6月末のデータなので、先ほどの10月頭とは、少し時期が異なっています。
【JEPQ】のELNの発行体はBNPパリバ、ゴールドマン・サックス、クレディ・スイス、UBSなど世界的な金融機関ばかりです。償還日は1週ずつずれています。
クーポンレート(利率)は【JEPQ】が110%を超えており、【JEPI】は60%台が多いですね。
どちらもELNは全体の20%が上限なので、この利率の約1/5が実際の利回りになります。ざっと計算すると【JEPI】は60%の1/5だと、利回り12%なので妥当ですね。【JEPQ】は100%の1/5だと、利回りは20%を超えますね。【JEPQ】の実際の利回りは10%ぐらいなので、少しクーポンレートが高すぎる気がしますね。
分配金とボラティリティの関係
コール・オプションの売りは、ボラティリティが大きいほど、獲得できるプレミアムが大きくなる傾向にあります。
【JEPQ】の分配金と、ナスダック100のボラティリティを示す指数【VXN】の関係を見てみましょう。
これまで分配金は7回しか支払われていないので、何とも言えないですね。8月や9月はVXNの値が上がったので、【JEPQ】の9月分配金が増えたようにも見えます。
【JEPI】とボラティリティの関係
それでは、約2年半ほどの実績のある【JEPI】の分配金と、S&P500のボラティリティを示す指数【VIX】の関係をチェックしましょう。
ボラティリティの大きい時に、分配金も増える傾向にあります。比較的連動していると言えます。
そんなわけで、【JEPQ】の分配金は【VXN】の数値とある程度は連動していきそうです。
ボラティリティは抑えられているのか?
公式サイトには「ナスダック100よりもボラティリティを抑えながら、同指数の値上がり益の恩恵を一定程度享受することを狙った運用を行う」と書いてあります。
【JEPQ】とナスダック100ETF【QQQ】の20日ボラティリティを比較します。設定されたのが2022年5月3日なので、その約1カ月後の6月始めから緑色の【JEPQ】のデータが始まります。【JEPQ】のボラティリティは、水色の【QQQ】のボラティリティよりも低いですね。
【JEPI】のボラティリティはどうか?
下のグラフは、【JEPI】とS&P500ETF【SPY】の20日ボラティリティの比較。過去2年です。こちらも緑色の【JEPI】のボラティリティは対象ETF【SPY】よりも低く推移しています。
運用総額の変化は?
【JEPQ】と、ライバルとも言えるナスダック100カバードコールETF【QYLD】の運用総額の変化を比較しました。【JEPQ】の設定直後2022年5月5日から12月1日までのデータです。
1ドル135円で計算すると、【JEPQ】は約1140億円(847ミリオン・ドル)増えています。【QYLD】は約1050億円(779ミリオン・ドル)増えています。わずかに【JEPQ】が優勢です。
最近の売れ行きを見ると、【JEPQ】は順調ですが、【QYLD】は資産流出が目立ちます。
※ちなみに、同じ期間の【JEPI】の運用総額は、約1兆1000億円(8.19ビリオン$)増えていました。
ライバルETFとトータルリターンを比較する
【JEPQ】とライバルETFのトータルリターンを比較します。ナスダック100カバードコールETF【QYLD】、ナスダック100ETF【QQQ】と比べました。
【JEPQ】が設定された2022年5月3日から12月2日までのデータです。ETF Replayを使用します。
期間が短くて何とも言えませんが、【JEPQ】と【QQQ】はマイナス8%弱で、ほぼ互角です。【QYLD】はやや劣っています。
また、緑色の【JEPQ】の推移を見ると、水色の【QQQ】と比べて、動きがマイルドです。ボラティリティは抑えられています。
今後20年間で分配金はどのくらいになるのか?
最後に、今【JEPQ】を購入したら、将来どのくらい分配金をもらえそうかをシミュレーションします。
1万ドルを投資した場合の、将来もらえる分配金の推移を検証します。「分配金を再投資しない(税引き後)」と「分配金を再投資する(税引き後)」の2パターンで検証します。
【JEPI】は増配銘柄ではありません。分配金に変化なし、増配率1%、増配率マイナス1%の3パターンを使います。
2022年12月2日の終値は43.95ドル、これまで7回の分配金合計は3.2767ドル。1年換算すると5.6172ドル。現在の利回りは12.78%になります。
増配率0%(分配金変化なし)で推移した場合の分配金予想
まずは増配率0%で推移した場合の、分配金を計算します。
分配金は約28%の税金を引いた72%で計算します。スタート時の利回りは12.78%なので、税金を引いた72%の9.20%になります。投資額が1万ドルなので、スタート年の分配金は920ドルになります。
再投資をしない場合は、10年後の分配金は920ドル、20年後の分配金も920ドルになります。
再投資をする場合は、10年後の分配金は2219ドル、20年後の分配金は5352ドルになります。YOCだと53.52%です。
増配率1%で推移した場合の分配金予想
次に増配率1%で推移した場合の、分配金を計算します。
再投資をしない場合は、10年後の分配金は1016ドル、20年後の分配金は1123ドルになります。
再投資をする場合は、10年後の分配金は2549ドル、20年後の分配金は7734ドルになります。YOCだと53.07%です。
増配率マイナス1%で推移した場合の分配金予想
最後に増配率マイナス1%で推移した場合の、分配金を計算します。
再投資をしない場合は、10年後の分配金は832ドル、20年後の分配金は753ドルになります。
再投資をする場合は、10年後の分配金は832ドル、20年後の分配金は3761ドルになります。YOCだと28.7%です。
いずれのケースでも、「再投資する」場合の分配金の伸びが素晴らしいです。増配率マイナス1%でも、20年後の分配金はかなりの額になります。複利効果ですね。
まとめ
【JEPQ】は設定から間もないので、データは揃っていないので、傾向はつかみづらいです。
経費率は0.35%と低いですね。【QYLD】【XYLD】などグローバルX社のカバードコールETFは0.6%なので、良心的です。
分配金は7回しか出ていませんが、なかなか好調です。
最近の売れ行きは【QYLD】よりも好調で、トータルリターンもやや上回っています。
株式の部分のボラティリティは低く抑えられており、ELNの部分は高いボラティリティを利用してインカムを獲得しています。
いずれにせよ、ナスダックの軟調が続くと、今後のリターンは苦戦しそうです。