バンガード社のバンガード トータル・ストック・マーケットETF【VTI】が、2022年6月21日に分配金を発表しました。0.7491ドルです。1年前の同期は0.6753ドルでしたので、1年前の同期から10.9%増です。
利回りを過去1年間の分配金額から算出すると、2022年6月21日の終値は188.16ドル、過去1年の分配金額は3.0407ドルなので、利回りは1.62%になります。
※このページでの利回りは、過去1年間の分配金をもとに計算します。
【VTI】の過去の分配金と増配率は?
【VTI】が設定されたのは2001年5月です。
今回の【VTI】の分配金が増配or減配なのかは、どのデータを比較するかによって異なります。もっともオーソドックスなのは、下の表の(1)「期別分配金」の今回と前年同期の比較です。今回が0.7491ドル、前年の同期が0.6753ドル。(2)「期別分配金の対前年同期増減率」は10.9%増になります。最近では4回続けて前年同期を上回っており好調です。
また、(3)「過去1年分配金」を1年前と比較するのも参考になります。今回が3.0407ドル、前年の同期が2.9669ドル。(4)「過去1年分配金の対前年同期増減率」は8.5%増となります。
色をつけた箇所のデータをグラフにして解説していきます。「期別分配金」と「過去1年分配金」のデータを様々な角度から比較することで、【VTI】の分配金の傾向を探ります。
期別分配金で1年ごとの分配金イメージをつかもう
(1)「期別分配金」を1年ごとに重ねて棒グラフにしました。
2007年以降のデータです。2012年から2019年にかけては、鮮やかな右肩上がりです。2019~2021年は横ばいです。2022年の分配金は、3月に続き6月も前年2021年の同期よりも多いです。12月以外で0.7ドル台が2度続いたことはなく、2022年の分配金は過去最高額のペースです。
期別分配金を1つずつ並べて比べよう
(1)「期別分配金」を1つずつ棒グラフにして、株価と比較しました。
分配金は期によって結構差がありますね。2019年12月と2021年12月の分配金が突き抜けており、12月が多い傾向です。長期で見ると、右肩上がりです。
年間分配金と株価の関係は?
(3)「過去1年分配金」を1年ごとにまとめて年間分配金とし、株価と比較しました。株価は最新年を除いて年末のものです。【VTI】の分配金が最初に支払われたのは2001年6月です。直近の2022年は、あと2回分配金があります。
分配金と株価は、ある程度連動しているように見えますが、2019年以降は株価の急上昇に対して分配金は横ばいです。ただし、2022年に株価は急落しています。
過去1年分配金額を1つずつ並べて確認しよう
(3)「過去1年分配金」を期ごとに棒グラフにして、株価と比較しました。
先ほどの期別分配金と比べると、棒グラフのデコボコが減りマイルドになります。過去1年分配金額の伸びと株価の動きは、ある程度連動していましたが、ここ2年は株価の伸びが凄まじいです。最近の株価暴落は、過去1年分配金との比較から考えると妥当と言えるかもしれません。
期別と過去1年分配金を、前年同期と比較しよう
(2)「期別分配金の対前年同期増減率」、(4)「過去1年分配金の対前年同期増減率」をグラフにしました。
ETFの場合、「期別分配金の対前年同期増減率」で増配や減配を決めることが多いですが、大きく減ることも比較的あるので、あまり気にする必要はありません。
それよりも「過去1年分配金の対前年同期増減率」がプラスで推移しているかが重要です。紫色の部分です。【VTI】はこの値がプラスが多く、長期で増配傾向にあるといえます。2008年9月のリーマン・ショックの直後を除くと、かなり安定しています。ただし、2020年以降はマイナスが少し目立ちます。
年間増配率は?
(4)「過去1年分配金の対前年同期増減率」の1年ごとのデータを見てみましょう。いわゆる年間増配率です。
最初に分配金が支払われたのが2001年の6月なので、2003年からのデータです。リーマン・ショックの影響で2008年と2009年はマイナスでした。コロナ・ショックの2020年もマイナスでした。その3年を除くと、ほとんどの年が前年より5%以上増えており優秀ですね。
長期の増配率をチェック!
年間増配率だとざっくりしすぎていて、若干イメージしづらいかもしれません。そういう時は、複数年単位で増配率をチェックしましょう。下のグラフは過去3年と過去5年の増配率の推移です。
リーマン・ショック以降は10%前後と高かったですが、2020年以降は5%前後に下がっています。今後の巻き返しに期待したいです。
2020年以降の株価と利回りは?
2020年以降の【VTI】の株価と利回りを見てみましょう。過去1年の年間分配金額から算出しました。青線が株価(左軸)で、赤線が利回り(右軸)です。
2020年の年初の利回りは1.7%ぐらいでしたが、2月半ば以降はコロナ・ショックで株価が暴落したため、3月23日には利回りが2.6%まで上昇しました。その後株価は順調に回復しましたが、2022年に入って株価が暴落し、6月21日現在の利回りは1.62%です。
現在の【VTI】の株価と利回りの関係は?
下のグラフは年間分配金額が現在と同じ3.0407ドルが続いた場合の、利回りと株価の相関図です。利回りを0.1%ごとに株価を出しました。今後【VTI】を購入しようと考えている人は、目安にしてください。
【VTI】を過去に買っていた場合のYOCは?
過去に【VTI】を買った場合、取得価格あたりの利回り(YOC)はどのくらいでしょうか? 現在から10年前までの株価、利回り、YOCを見ていきましょう。株価は月末のもので月1回なので、ややアバウトです。
下のグラフの黄色の線が、取得価格あたりの利回り(YOC)です。この線が左肩上がりの場合は、株価好調&増配傾向にあるといえます。なので【VTI】はかなり好調ですね。
2022年6月21日の終値は188.16ドル、過去1年の分配金額は3.0407ドルなので、現在の利回りは1.62%です。過去10年の平均利回りは約1.8%です。現在は株価が調整局面を迎えており、利回りは上がっています。平均利回りの1.8%以上で購入したいところです。
過去10年で株価は右肩上がりで、増配もしていますので、早い時期に買った方がYOCは上がります。2012年7月頃に買っていたら、現在YOCは約4.3%になっていました。
基本情報を確認しよう
【VTI】は米国のほぼすべての銘柄を時価総額加重平均で組み入れたETFです。今後も米国の成長が続けば、保有している人はその恩恵を享受することができるといえます。
全米【VTI】と、S&P500【VOO】、ニューヨーク・ダウ【DIA】、連続増配ETF【VIG】を比較しました。成績が良い箇所を赤色、まずまずのところをオレンジ色にしました。
運用総額は【VTI】と【VOO】が圧倒的に多く、日本円にすると約34兆円です。経費率もこの両ETFは0.03%と激安です。
銘柄数は全米【VTI】が4000以上と圧倒的で、【DIA】はダウ・ジョーンズ株平均指数に連動しているため30銘柄と少ないです。
2022年以降米国株は軟調で、利回りは【VTI】【VOO】が1.6%ほど、【DIA】【VIG】は約2.0%で通常より少し高いです。
【VTI】とライバルETFのセクター比率は?
【VTI】のセクター比率は情報技術の割合が最も多く、全体の4分の1以上を占めています。以下、ヘルスケア、金融、一般消費財、資本財、通信サービスの順です。
【VTI】とライバルのインデックスETF【VOO】【DIA】、そして【VIG】【VYM】【QQQ】など米国の主要ETFと、セクター比率を比べましょう。GICSに統一しています。
全米【VTI】とS&P500【VOO】はほぼ同じです。全米の上位80%ほどがS&P500なので、似たような割合になります。情報技術セクターが1/4強を占めています。
【DIA】【VIG】も【VTI】と結構似ています。【VTI】と比べると【DIA】はヘルスケア、金融、資本財の割合が少し多いです。【VIG】は金融、資本財、生活必需品がやや多めです。【DIA】【VIG】も情報技術は多いですが、【VTI】と比べると少ないです。
【VTI】の上位組込銘柄はどんな会社か?
【VTI】の組込比率0.5%以上の銘柄です。全部で29銘柄あります。ベンチマークは、CRSP USトータル・マーケット・インデックスです。上位29銘柄で、全体の35.6%を占めています。ちなみに上位10銘柄では22.2%です。
【VTI】は全部で約4000銘柄組み込まれているので、上位組込銘柄の比率が高く、影響力が大きいと言えます。上位組込銘柄は配当を払っていない大型テック株が多いですね。
※組込順位や構成比は2022年5月末日、時価総額や配当利回りは2022年6月21日のデータです
2020年4月以降の上位銘柄は?
2020年4月以降の組込比率0.5%以上の銘柄の推移です。
2022年5月末と2021年の12月との比較では、組込上位のGAFAMテスラが、いずれも比率を下げています。情報技術のエヌビディア【NVDA】も不調です。それに対して、エクソン・モービル【XOM】、シェブロン【CVX】などエネルギー・セクターは好調です。
【VTI】上位20銘柄は主要ETFには組み込まれているのか?
【VTI】の組込比率上位20銘柄は、他のETFにどのくらいの割合で組み込まれているのでしょうか? インカム系ETFを、高配当【SPYD】【HDV】【DHS】、中配当【DVY】【VYM】【SDY】、低配当【VTV】【DGRW】【VIG】の3つにやや強引に分類し、市場全体インデックス【DIA】【VOO】【VTI】、ハイテク・グロース【VUG】【QQQ】【VGT】も加えた15ETFへの組込比率(%)をまとめました。
背景色のオレンジ色が濃いほど、組込比率が高いことを意味しています。
【VTI】と【VOO】の組込順位はほとんど変わりません。全組込銘柄数の少ない【VOO】が、個別銘柄の比率は高いです。【VTI】【VOO】【VUG】【QQQ】は上位11銘柄のうち8銘柄が同じで、並び順もほぼ同じです。いわゆる「GAFAMテスラ・エヌビディア」です。
高配当ETFは【VTI】の上位10銘柄にはあまりありません。【VTI】は米国の全体を時価総額の大きな順に組み込んだETFなので、上位陣はハイテク・グロース系が占めています。ただし、2022年に入ってからは、ハイテク・グロース系は不調です。
表の下から2行目の背景が真っ赤になっているのは、【VTI】が全米の投資可能銘柄のほぼすべてが対象なので、他のETFの組込銘柄がほとんど含まれていることを意味しています。
【VTI】との重複率は【VOO】が84%で最多、【VUG】【VTV】が45%前後、【DGRW】【VYM】【VIG】【QQQ】が3割強です。
個別銘柄から見ると、シェブロン【CVX】が全15ETF中10ETFに入っています。9ETFに入っているのはジョンソン・エンド・ジョンソン【JNJ】、エクソン・モービル【XOM】、プロクター・アンド・ギャンブル【PG】です。
※組込比率は、バンガード社のETFは2022年5月末、その他のETFは6月7~17日頃データをもとにしています。主要ETFのティッカー・コードの下の数字は6月21日の利回り(%)です。
一番下のETF同士の比率は「etfrc.com」のデータです。
ライバルETFとトータルリターンを比較する
全米ETF【VTI】とS&P500ETF【VOO】、ニューヨークダウ連動ETF【DIA】、連続増配ETF【VIG】のトータルリターンを比較します。2012年6月から2022年5月までの10年間を、PORTFOLIO VISUALIZERを使って比べます。
2012年6月に1万ドル投資して分配金を再投資した場合、2022年5月には【VOO】が3万8300ドル、【VTI】が3万6900ドル、【VIG】は3万3800ドル、【DIA】は3万3200ドルになっていました。
【VOO】と【VTI】がやや優勢です。この2つはチャートの形もほぼ一緒です。
最近のリターンは?
今度は、年初来リターンを見てみましょう。2022年1月1日から6月21日のETF replayのデータです。【VTI】はマイナス21.8%と散々です。いずれのETFも軟調ですが、高配当の【VYM】が健闘しています。エネルギーや公益事業セクターが多く、情報技術が少ないETFがダメージが少ないようです。
ここにはありませんが、ハイテクが主流のナスダック100連動ETF【QQQ】はマイナス29.1%です。
過去の分配金はどのくらいか?
2012年6月に1万ドル投資して分配金を再投資した場合の年間でもらえる分配金の推移です。税金は考慮しません。
10年間の分配金の合計は【DIA】が4300ドル、【VOO】が4000ドル、【VIG】が3900ドル、【VTI】が3800ドルでした。ほとんど同じですが、【DIA】がわずかに優勢です。
主要ETFとのトータルリターン比較
インカムETF9種類と、市場全体インデックス3種類、ハイテク・グロース系ETF3種類、計15ETFの過去1、3、5、10年のトータルリターンを比較しました。現在の利回りは★です。
2022年に入って利回りの高いETFの成績がいいため、過去1年では「高配当」の成績が良く、ハイテク・グロースやインデックスの成績がマイナスです。
過去5年や10年のリターンは、以前はインデックスが高配当系を圧倒的に上回っていましたが、だいぶ差が縮まってきています。
過去5年、10年ともに【QQQ】と【VGT】の強さが目立ちます。【VTI】の過去3年以上リターンは【VOO】とほぼ同じです。【QQQ】【VGT】には劣りますが、【DIA】【VIG】よりはいいですね。
危険度はどのくらいか?
ETFの安定度を比べてみましょう。最大ドローダウンは、計測期間における最大下落率です。マイナスの数値が小さいほど最大下落率が低いです。
シャープレシオとは、同じリスクを取った場合のリターンです。「(ファンドのリターン−無リスク資産のリターン)÷標準偏差」の値です。
ソルティノレシオはシャープレシオの改良版で、相場が軟調の際の成績を示しています。「(ファンドのリターン-無リスク資産のリターン)÷下方偏差」で計算します。
【VTI】の3つの値は、【VOO】や【VIG】と比較するとわずかに劣っています。【DIA】との比較では、いずれの値も上回っています。
主要ETFと増配率を比較する
過去の増配率を比較しました。最新2022年6月を基準としたデータです。【DHS】【DGRW】【VOO】は6月の分配金がまだなので、3月や5月の分配金データをもとにしています。利回りは6月21日の終値から計算しました。
【VTI】の過去3年増配率は3.4%、過去5年増配率は5.0%、過去7年増配率は6.2%、過去10年増配率は8.7%です。【VTI】は過去10年の増配率は高いですが、過去3年増配率は今ひとつです。
主要ETFの今後のYOC予想は?
現在の過去1年分配金額と3、5、7、10年前の同時期の過去1年分配金額を比較して年間増配率を計算し、それを使って将来YOCを予想します。先ほどの増配率同様に、最新6月の分配金が基準のETFと3月や5月の分配金が基準のETFが混在しています。
YOC(Yield on Cost)とは、取得価格あたりの利回りのことです。2022年6月21日の終値で買った場合、将来の利回り(YOC)がいくらになるかという予測です。
分配金を再投資しない、税金を考慮しないで検証します。
10年後のYOCはどうなっているか?
過去3年、5年、7年、10年の増配率を使って、主要15ETFの10年後YOCを予測します。【SDY】や【VYM】が好調です。ただし、【SDY】は2013~17年のキャピタルゲイン分配金を考えずに計算しましたので、過去5年や過去7年の成績は良く出すぎているという考え方もできます。
【VTI】は増配率はまずまずですが、高配当ETFなどと比較すると現時点での利回りは高くないので、10年後のYOC予想はそれほど伸びません。インカムよりもキャピタル(値上がり益)を重視するETFです。
20年後のYOCはどうなっているか?
続いて、20年後のYOCを予測します。今度は【DGRW】や【VIG】がなかなか好調です。これらのETFは現時点での利回りは低いですが、増配率が高いので、長期保有でYOCが上がることになります。
【VTI】は過去10年の増配率が続けば、20年保有でYOCは8.6%となかなかです。
まとめ
【VTI】の2022年6月の分配金は、前年同期と比べて10.9%増となかなかでした。最近では4回続けて前年同期を上回っており好調です。
2022年の年初から利上げとインフレが懸念され、グロース株やハイテク銘柄を中心に全体的に株価が軟調なので、買い時かもしれませんね。
いずれにせよ【VTI】は全米の株式市場全体をカバーしているETFなので、長期で見れば安心できるETFと言えそうです。
ETFの純資産は34兆円ほどで、S&P500連動型の【VOO】とほぼ同じ規模で、全体では上から3~4番目ぐらいに売れています。ナスダック100連動型ETF【QQQ】よりも規模は大きいです。
過去10年の増配率は高いですが、それと比べると過去1年や3年はやや減っています。ただしこれはほとんどの米国系ETFに当てはまります。
トータルリターンなど主要な数値は【VOO】とほぼ同じですね。
次回の分配金は9月23日が権利落ち日です。