「追加投資をせずに、配当や分配金が現在の数倍にならないだろうか?」こんなことを考えたことはありませんか? そんな方法があるかもしれません。
今回は、とっておきの投資術で、米国ETFの分配金をたくさんもらう方法を検証します。
- 主な内容
- 手数料について
- ルールの説明
- 取り扱う銘柄の紹介
- 売買のタイミングは?
- 検証する組み合わせは7パターン
- (1)5ETFの回転売買をシミュレーション
- (1)5ETFの回転売買、2022年の4~5月をシミュレーション
- (1)5ETFの回転売買、2022年の6~7月をシミュレーション
主な内容
米国の超高配当ETFを、次々と乗り換えて、毎月複数のETFの分配金を貰うシミュレーションをします。題して「米国超高配当ETF、回転売買、分配金獲得大作戦」です。
権利が落ちたら片っ端から売って、次の銘柄に乗り換え、最大で5倍の分配金をもらおうという検証です。株価の値下がり損、いわゆるキャピタルロスとの戦いになります。
対象は【QYLD】【JEPI】【YYY】【SDIV】など、日本の大手ネット証券で購入可能な利回りが10%に近い超高配当ETFです。
手数料について、株価のキャピタルロスがどのくらいか、そのまま保有した場合とのトータルリターン比較などを行います。
あくまでシミュレーションです。
手数料について
今回のシミュレーションのキモは手数料です。下の表は米国株の売買手数料です。
日本の大手ネット証券の場合、米国株の手数料は、通常1取引あたり0.495%かかります。約0.5%です。なので、ひとつのETFを買って売ると、合計で約1%も手数料を取られてしまいます。1%というのは、【QYLD】などのカバードコールETFの毎月の分配金の上限です。つまり、買って売ると、【QYLD】の分配金の約1カ月分がなくなってしまいます。これでは手数料が高すぎるので、この実験をやる意味がないですね。
ところが朗報。この手数料には上限があります。1取引当たり22ドルです。つまり、一度に4444ドル以上買うと、たくさん買えば買うほど、購入額に対する手数料の割合が下がります。
上のグラフは約定代金と手数料、そして手数料の割合の関係図です。赤い線、右軸が手数料の割合です。取引額の少ない左側は0.495%ですが、4444ドル以降は右肩下がりになります。たとえば、一度の取引が4444ドルの10倍の4万4444ドルの場合は、手数料は0.0495%。約0.05%。買いと売りで約0.1%になります。
つまり手数料上限4444ドルの10倍の4万4444ドル、日本円にして約600万円を用意して、それを1ロットとして取引をすれば、手数料の割合は1/10になります。端数が気になりますので、今回は4万5000ドルで実験します。
ルールの説明
それではルールを説明します。最初に4万5000ドルを保有し、すべて購入します。余剰金を出すと、表にした場合わかりづらいため、便宜上小数点以下も購入したことにします。
2カ月間を1セットで計算します。
保有銘柄の権利落ちと、新規銘柄の権利付き最終日の中間の日に売買します。保有しているETFを始値で売って、同日の終値で新規ETFを購入します。
分配金は税引き後の72%です。保有銘柄を売却したタイミングで追加します。現実ではもう少し後の、たとえば次の銘柄の保有中などに分配金が振り込まれますが、そうすると計算が面倒でわかりづらくなるので、少し早いタイミングですがご了承ください。
最後に残った金額でトータルリターンや分配金額などを計算します。通常に保有した場合との比較を行います。
取り扱う銘柄の紹介
今回取り扱う超高配当ETFは、以下の7つです。利回りは10%前後が多く、日本の大手ネット証券で購入可能な毎月分配型ETFの中で、利回りの高い銘柄です。
【HYLS】【ELD】は利回りが6~7%ぐらいでやや低いです。
【QYLD】【RYLD】【JEPI】はカバードコールETFです。原資産を保有しながら同指数のコールオプションを売って、オプションプレミアムを獲得するETFです。ボラティリティの大きい時に、分配金が多い傾向です。【JEPI】は少し毛色が異なり、利率の高い仕組債を保有しています。
【YYY】【HYLS】【ELD】は債券が対象です。【HYLS】は米国、【ELD】は新興国、そして【YYY】は債券を中心にさまざまな商品を組み込んでいます。【HYLS】【YYY】は経費率が1%を超えており、高いですね。【HYLS】はアクティブ運用、【YYY】はクローズドエンドファンドを組み込んでいるからです。
【SDIV】は世界の高配当株が対象です。
売買のタイミングは?
銘柄の売買のタイミングについて見てみましょう。
上の表は超高配当ETFの2022年4月末から5月の権利落ち日のカレンダーです。赤い文字がETFの権利落ち日です。分配金をもらうには、権利落ち日の前日が終わった時点で保有している必要があります。権利付最終日と言います。そして権利落ち日以降なら売ってしまってOKです。
なので背景が薄いオレンジ色のタイミングで売り買いします。保有している銘柄を始値で売って、次の銘柄を同じ日の終値で買うことにします。
権利落ち日が2日続いている場合は、前の銘柄の権利落ちのタイミングで売って、その日に買うようにします。たとえば2022年4月の場合、23日が【QYLD】の権利落ち、24日が【HYLS】の権利落ちと連続しているので、23日に売買を行います。【HYLS】の権利付き最終日が23日だからです。
検証する組み合わせは7パターン
検証するETFの組み合わせは、この7つです。一番下の(7)は、5.5ETFとありますが、これは【ELD】というETFが【HYLS】と権利落ち日が重なることがあり、購入できる月とできない月があるためです。なので5.5ETFとなります。
この7つのグループを、それぞれ2カ月ずつを区切って検証します。2022年の2~3月、4~5月、6~7月。7グループで3つの期間、合計21のデータを検証します。
権利落ち日のカレンダー(2022年2月~7月)
権利落ち日のカレンダーはこちらです。左が2月と3月、中央が4月と5月、右が6月と7月です。
(1)5ETFの回転売買をシミュレーション
それでは「米国超高配当ETF、回転売買、分配金獲得大作戦」のシミュレーションを行います。最初は5つのETFです。【JEPI】【SDIV】【QYLD】【HYLS】【YYY】です。まずは2022年の2月と3月の取引です。
最初の購入額が背景が黄色の4万5000ドルです。これを、権利落ち日のちょうど中間の日に売買していきます。購入するのは終値、売却するのは始値です。
購入時は、購入金額から手数料の22ドルを引き、株価から株の枚数を決めます。小数点以下も買えることとします。
売却時は、株価と保有している株の枚数で金額を出し、その後に手数料22ドルを引き、分配金を追加します。
2月と3月は株価が比較的好調だったこともあり、最終的には4万8052ドルになりました。
回転売買をした場合とそのまま保持したケースの比較
今回の実験である回転売買をした場合と、そのまま保持した場合のデータを比較します。
左が2月頭から3月末にかけての対象となる5つのETFの「株価騰落率」です。権利落ちの関係で、厳密にはスタートは1月末です。
右上の「トータルリターン」の「回転売買」は、最初と最後の金額から算出します。2つ前の表の背景が黄色の部分です。
「トータルリターン」の「そのまま保持」は、この期間の株価騰落率の平均と、税引き後分配金比率の合計の1/5を足したものです。分配金比率の合計を1/5にするのは、今回は5ETFを対象としているからで、4つのETFが対象の場合は1/4にします。
右下の「分配金利回り」の「回転売買」は、税引後の分配金合計を6倍にしたものを、初期投資額で割ります。6倍にするのは、2カ月分のデータなので、それを1年分に換算するためです。税引き後分配金比率の合計値を6倍しても、似たような数値になります。
今回のケースでは、「トータルリターン」は回転売買が6.78%で、そのまま保持はほぼ0なので、かなり回転売買の成績がよかったことになります。
(1)5ETFの回転売買、2022年の4~5月をシミュレーション
続いて2022年の4月と5月の取引です。
最初の購入額は左上の黄色の4万5000ドルです。2月と3月のデータを引き継がずに、4万5000ドルの満額に戻ってスタートします。
4月と5月は、地合いが悪く、高配当ETFの成績は散々でした。回転売買の株価騰落率の合計はマイナス20.83%とヒドイですね。4万5000ドルが2カ月で3万7900ドルになってしまいました。
「トータルリターン」は回転売買がマイナス15.68%で、そのまま保持はマイナス7.66%なので、回転売買の成績は冴えないですね。
(1)5ETFの回転売買、2022年の6~7月をシミュレーション
最後は6月と7月の取引です。こちらも4万5000ドルの満額に戻ります。
トータルリターンの比較は、回転売買がマイナス7.51%、そのまま保持がマイナス2.59%と差をつけられました。
(2)4ETFの回転売買をシミュレーション
2番目に検証するのは4つのETFです。【JEPI】【SDIV】【QYLD】【YYY】です。1番目の検証から【HYLS】をなくしたケースです。
まずは2022年の2月と3月の取引です。トータルリターンは回転売買が6.07%で、そのまま保持は0.37%なので、かなり回転売買の成績がよかったことになります。1番目の検証と似たような結果です。
(2)4ETFの回転売買、2022年の4~5月をシミュレーション
続いて、2022年の4月と5月の取引です。
4月と5月は、地合いが悪かったです。回転売買の株価騰落率の合計はマイナス18.47%と良くないです。4万5000ドルが2カ月で3万8500ドルになってしまいました。トータルリターンはマイナス14.24%で、そのまま保持のマイナス7.98%に大きく劣っています。
(2)4ETFの回転売買、2022年の6~7月をシミュレーション
最後は6月と7月の取引です。
トータルリターンの比較は、回転売買がマイナス6.58%、そのまま保持が2.67%でした。
1番目に検証した5つのETFと、今回の4つのETF。回転売買の結果は似ていました。
(3)3ETF(SDIV、QYLD、YYY)の回転売買をシミュレーション
3番目に検証するのは3つのETFです。【SDIV】【QYLD】【YYY】です。2番目の検証から【JEPI】をなくしたケースです。【JEPI】の権利落ち日は、前の月の【YYY】と【SDIV】にはさまれており、間隔が近いです。そこで【JEPI】をなくすことで、3つのETFの感覚が良い感じに広がります。
まずは2022年の2月と3月の取引です。トータルリターンは回転売買が3.96%で、そのまま保持はマイナス1.51%なので、回転売買の成績がよいですね。
(3)3ETF(SDIV、QYLD、YYY)の回転売買、2022年の4~5月をシミュレーション
続いて、2022年の4月と5月の取引です。
回転売買の株価騰落率の合計はマイナス4.82%で、まずまず健闘しています。そのまま保持はマイナス8.24%です。
(3)3ETF(SDIV、QYLD、YYY)の回転売買、2022年の6~7月をシミュレーション
最後は6月と7月の取引です。
トータルリターンの比較は、回転売買がマイナス3.62%、そのまま保持がマイナス3.46%なので、ほぼ互角です。
【SDIV】【QYLD】【YYY】の組み合わせは、なかなか成績がよかったですね。やはりある程度、取引の間隔をあけて、キャピタルロスを防ぐのが良いのかもしれません。
(4)3ETF(JEPI、QYLD、YYY)の回転売買をシミュレーション
4番目に検証するのも3つのETFです。【JEPI】【QYLD】【YYY】です。3番目の検証から【SDIV】を【JEPI】に変更しました。
まずは2022年の2月と3月の取引です。トータルリターンは回転売買が2.47%で、そのまま保持は2.37%でした。回転売買の成績がわずかに良いですね。
(4)3ETF(JEPI、QYLD、YYY)の回転売買、2022年の4~5月をシミュレーション
続いて、2022年の4月と5月の取引です。
回転売買のトータルリターンはマイナス6.58%で、そのまま保持はマイナス8.47%です。
(4)3ETF(JEPI、QYLD、YYY)の回転売買、2022年の6~7月をシミュレーション
最後は6月と7月の取引です。
こちらのトータルリターンの比較は、回転売買が1.29%、そのまま保持が1.02%です。
【JEPI】【QYLD】【YYY】の組み合わせは、3つの期間すべてで回転売買が上回りました。【YYY】と【JEPI】は間隔が詰まっているので、キャピタルロスが結構あると思ったのですが、そうでもないようです。
(5)2ETF(JEPI、QYLD)の回転売買をシミュレーション
5番目からは2つのETFで検証します。まずは【JEPI】【QYLD】です。この2つのETFを保有している超高配当好き投資家は多いですよね。
2022年の2月と3月の取引です。トータルリターンは回転売買が1.85%で、そのまま保持は5.01%なので、回転売買の成績が劣ります。
(5)2ETF(JEPI、QYLD)の回転売買、2022年の4~5月をシミュレーション
続いて、2022年の4月と5月の取引です。
回転売買のトータルリターンはマイナス13.29%と、散々ですね。そのまま保持はマイナス9.54%です。
(5)2ETF(JEPI、QYLD)の回転売買、2022年の6~7月をシミュレーション
最後は6月と7月の取引です。
こちらのトータルリターンの比較は、回転売買がマイナス0.1%、そのまま保持が2.04%です。
なんと【JEPI】【QYLD】の組み合わせは、3つの期間すべてで回転売買が下回りました。先ほどの【JEPI】【QYLD】【YYY】と正反対の結果でした。意外ですね。いずれにせよ【JEPI】と【QYLD】は普通に保持するのが良さそうです。
(6)2ETF(JEPI、RYLD)の回転売買をシミュレーション
6番目も2つのETFで検証します。【JEPI】【RYLD】です。5番目の検証の【QYLD】を【RYLD】に替えました。
2022年の2月と3月の取引です。トータルリターンは回転売買が1.63%で、そのまま保持は6.73%なので、回転売買のリターンが悪いですね。
(6)2ETF(JEPI、RYLD)の回転売買、2022年の4~5月をシミュレーション
続いて、2022年の4月と5月の取引です。
回転売買のトータルリターンはマイナス7.50%、そのまま保持はマイナス7.51%で互角です。
(6)2ETF(JEPI、RYLD)の回転売買、2022年の6~7月をシミュレーション
6月と7月の取引はどうでしょうか。
こちらのトータルリターンの比較は、回転売買がマイナス3.86%、そのまま保持が0.13%です。
先ほどの【JEPI】【QYLD】と似たような結果で、回転売買は苦戦しました。【JEPI】と【RYLD】も普通に保持するのがいいかもしれませんね。
(7)5.5ETFの回転売買をシミュレーション
最後は5.5のETFが対象です。1番目に検証した組み合わせ【JEPI】【SDIV】【QYLD】【HYLS】【YYY】に、【ELD】を加えます。ただし、【ELD】は【HYLS】などと権利落ち日が重なる月がありますので、そういう月は取り上げません。
2月と3月は【ELD】は他のETFと権利落ち日が同じでしたので、1番目で検証した5ETFと同じ結果です。トータルリターンは回転売買が6.78%で、そのまま保持はほぼ0です。回転売買が優秀です。
(7)5.5ETFの回転売買、2022年の4~5月をシミュレーション
続いて、2022年の4月と5月の取引です。【ELD】は4月はありますが、5月は権利落ちが重なっています。
4月と5月は、高配当ETFの成績は軒並み悪かったです。回転売買のトータルリターンはマイナス14.26%とヒドイですね。
(7)5.5ETFの回転売買、2022年の6~7月をシミュレーション
6月と7月の取引はどうでしょうか。
【ELD】は6月は権利落ちが重なりありませんが、7月はあります。こちらもトータルリターンの比較は、回転売買がマイナス6.88%、そのまま保持のマイナス2.93%と比べて差をつけられました。
1番目に検証した5つのETFの場合と比較して、【ELD】を加えても、似たような結果になりました。
トータルリターン一覧
7パターンのシミュレーションのトータルリターンを比べましょう。
下の表の左側が回転売買をした場合、右側がそのまま保持した場合です。数字がトータルリターン(%)、○×はどちらのリターンが優秀だったかです。
右上の(4)3ETF(JEPI、QYLD、YYY)の組み合わせは、回転売買が3期間とも上回っていました。
左下の(5)2ETF(JEPI、QYLD)の組み合わせの場合は逆で、そのまま保持した方が3期間ともにリターンが良かったですね。
3つのETFの組み合わせは成績がよかったですが、2つのETFの組み合わせは苦戦しています。
全体的に見た場合、地合いの悪かった4~5月は回転売買の成績がよくないですね。相場が好調だった2~3月は回転売買の分配金がモノを言った感があります。
回転売買をした場合の税引後分配金と分配金利回り
回転売買をした場合の税引後分配金と分配金利回りも比較してみましょう。4万5000ドルを投資して、2カ月でもらえる分配金の合計(税引後)です。
こちらは、銘柄数が多いほど、分配金を多く獲得できます。5ETFの場合は利回りは30%前後になります。1銘柄あたりの利回りが税引後6%ぐらいという計算になりますね。
3ETFや2ETFの場合、いずれも利回りの高い銘柄なので、1銘柄あたりの利回りは、税引き後7~8%ぐらいです。
分配金額や利回りのデータは申し分ないですが、やはりキャピタルを含めたトータルリターンが重要ですね。
ちなみにそのまま保持した場合のデータは、この表の数字を組み合わせたETFの数で割ると出ます。
まとめ
今回のシミュレーションの問題点とまとめです。
手数料を下げるために、一度に4万5000ドルほど(約600万円)の売買をする必要があります。そうすると、購入する際の株価が高くなってしまうかもしれません。売却時はその逆で、安い株価で売る羽目になりそうです。今回は始値で保有銘柄を売って、終値で新規銘柄を買うシナリオでしたが、その通りの値で売買できるかは疑問です。あくまでシミュレーションなので、ご了承ください。
一度に扱う金額が大きいため、暴落時のキャピタルロス、いわゆる株価の値下がり損は、精神的なダメージが結構ありそうです。
トータルリターンはそれほど悪くはなかったですが、そのまま保持とリターンは似ていたので、わざわざリスクの大きい回転売買する必要はないかもしれません。
株価の値下がり損。いわゆるキャピタルロスが結構ありそうというのは、いいこともあります。特定口座で強制的に源泉徴収される取引を選択している場合は、自動的に損出しを行っていることになります。そのため、翌年の1月に戻ってくる還付金が結構大きな額になるはずです。この還付金も含めると、トータルリターンは、もう少し良くなりますね。
結論としては、難易度が高く、あまり現実的とは言えない取引方法なのかもしれません。