JPモルガン・米国株式・プレミアム・インカムETF【JEPI】が2023年8月1日に分配金を発表しました。0.2904ドル(厳密には0.29037)でした。
1年前の同期は0.4955ドルだったので、1年前の同期との比較では41.4%減です。前回2023年7月の分配金は0.3593ドルなので、先月との比較では19.2%減です。
2023年8月4日の終値は55.13ドル、過去1年の分配金は5.5691ドルなので、利回りは10.10%になります。
※このページでの利回りは、過去1年間の分配金をもとに計算します。
【JEPI】の過去の分配金と増配率は?
【JEPI】が設定されたのは2020年5月です。下の表は過去の配当金の一覧です。期間が短いので何とも言えませんが、2021年不調、2022年好調、2023年不調という傾向です。
※背景が赤になっているのが対象月と比べてマイナスです
【JEPI】の毎月の分配金は?
期別の分配金を重ねて1年ごとにしました。権利落ちは毎月1日ごろです。毎月の分配金は、2020年は0.4ドル台後半が多く、2021年は0.3ドル台に低迷しましたが、2022年は回復して0.5~0.6ドルが多かったです。2022年の年間分配金額は、2021年の約1.47倍と大きく増えました。
2023年2月以降は0.5ドルを切っており、苦戦しています。最近3回は0.4ドルを下回っています。
【JEPI】の分配金と株価の関係は?
毎月の分配金(青い棒グラフ)と株価(赤い折れ線グラフ)の比較です。数値が二桁異なるので、棒グラフと折れ線グラフが重なると月利1%で、年間利回りは12%の目安となります。
2023年2月以降は、株価よりも棒グラフが下の位置なので、利回りは12%に届いていません。
株価は50~64ドルの間で推移しています。分配金は結構バラつきがあり、0.25~0.62ドルです。株価が高い時は分配金が少なく、株価が低い時は分配金が多いようにも見えます。
分配金とボラティリティの関係
【JEPI】はELNを使ってS&P500のカバードコール戦略を行います。そのため、ボラティリティの値と、毎月の分配金は、ある程度関連があると考えられます。
下のグラフは、S&P500指数のオプション価格から算出されるボラティリティを示す【VIX】と、【JEPI】の分配金の関係です。
2020年後半は【VIX】の値が25を超えており、分配金額も好調でした。そして2021年の前半から中盤にかけては【VIX】の値が20を切っており、分配金も減りました。2021年の終盤以降は【VIX】の値が25を超えており、分配金額も増えました。
【JEPI】の分配金額は、【VIX】とある程度連動していると言えます。【VIX】が20を下回ると、【JEPI】の分配金は少なくなる傾向です。【VIX】が25を超えると、分配金は多いですね。
2022年終盤以降は【VIX】の値が下がっており、2023年6月以降は【VIX】は15以下で、分配金も0.4ドルを切りました。ただし、8月に入ってから【VIX】は上昇傾向なので、来月は期待できるかもしれません。
設定来の株価と利回りは?
株価と利回りの比較しましょう。株価が青い線です。ほぼ横ばいですね。2020年5月に50ドルでスタートして、2021年12月頃が最も高く63ドル、2023年2月現在55ドル付近まで下がりました。
利回りを過去12カ月の分配金から算出した「12カ月利回り」が、赤い線です。分配金を支払いはじめてから1年後から登場します。2021年5月は約8%、現在の2023年8月4日は10.10%ですね。
現在の分配金を12倍して利回りを計算する「直近利回り」は、黄色い線です。毎月分配金が異なりますのでデコボコです。8月は分配金が少なかったため、現在の直近の利回りは6.32%です。
【JEPI】のように月々の分配金の差が激しい場合は、この2つの利回りを見比べて、現在どのくらいなのかをイメージするといいかもしれません。
ライバルETFとの比較
【JEPI】のライバルといわれるカバードコールETFの【XYLD】、そして【QYLD】【RYLD】【JEPQ】と主要データを比べましょう。
【XYLD】はS&P500をカバードコール戦略するETFなので、【JEPI】との類似性があります。【QYLD】【JEPQ】の対象はナスダック100指数、【RYLD】はラッセル2000という全米の小型株が対象です。
運用総額は【JEPI】が最も多く約4.1兆円で、【QYLD】が約1.2兆円です。【XYLD】は約4200億円なので、少し差がついています。【JEPI】は設定が2020年5月と最近ですが、売れ行きはかなり好調です。
過去1年分配金から算出した利回りは、現在は【RYLD】が少し高く、【JEPQ】【QYLD】が2番手集団、【XYLD】が続き、【JEPI】はやや劣ります。
分配金利回り(12カ月)は過去1年の分配金を株価で割って算出したものです
分配金利回り(直近)は直近の分配金を1年換算して計算しました
表の中の数値が他のETFと比較して優れている場合は赤字にしました。次点はオレンジ色です。
ライバルETFとの関係
【JEPI】とライバルETFの比較です。4つのETFの関係や大まかな違いはこんな感じです。
左から2列目は対象がS&P500です。【JEPI】のライバルは同じS&P500をカバードコールするETF【XYLD】です。
一番左の列の【JEPQ】と【QYLD】はナスダック100が対象です。
上段の【JEPQ】と【JEPI】はJPモルガン・アセットマネジメント社の商品で、80%が低ボラティリティ銘柄で、残りの20%がELNという仕組債で、コールオプションを売ります。
下段の【QYLD】と【XYLD】はグローバルX社のカバードコールETFです。原資産を保有しながら、コールオプションを売ります。
大まかに言うと、JPモルガンとグローバルX社のETFは似ていますよね。コール・オプションの売りにおける権利行使価格が原資産よりも高い「アウト・オブ・ザ・マネー」か、権利行使価格が原資産と同額の「アット・ザ・マネー」の違いはあります。
経費率はJPモルガン・アセット・マネジメント社の【JEPQ】【JEPI】が0.35%、グローバルX社の【QYLD】【XYLD】は0.60%なので少し差があります。
カバードコール系ETFの利回り推移
カバードコール系ETF【RYLD】【QYLD】【XYLD】【DJIA】【JEPI】の利回りの変化を見てみましょう。利回りは直近の分配金を1年換算したものから算出しました。株価は月末のものです。
※2021年12月に【RYLD】【QYLD】はキャピタルゲイン分配金を出しました。これを含めて計算するとイメージしづらくなるので、2021年12月分配金は【RYLD】【QYLD】はNAVの上限1%で計算しました
カバードコール系ETFの利回りを過去1年分配金から算出
先ほどのグラフだと、月によって分配金の変動があるため少しイメージしづらいかもしれません。過去1年の分配金から利回りを算出しました。
最近は利回りが少し下がってきています。実際の目安は【RYLD】が12%、【QYLD】【JEPQ】が11%、【XYLD】【JEPI】が10%、【DJIA】が9%ぐらいですかね。
※このグラフも前項同様に、2021年12月分配金は【RYLD】【QYLD】はNAVの上限1%で計算しました
【JEPI】はどんなETFか?
JPモルガン・米国株式・プレミアム・インカムETF【JEPI】は、米国大型株(主にS&P500)とオプションの販売の投資を組み合わせ、オプション・プレミアムと株式配当から毎月の収益を得ることを目指します。
【JEPI】の約80%が、S&P500採用銘柄を中心とした低ボラティリティ銘柄。この部分で株価の値上がり益を狙います。
20%を上限に、エクイティ・リンク・ノート(ELN)が組み込まれています。これは、株式に連動してインカムを狙う仕組債の一種です。S&P500指数の1カ月のアウト・オブ・ザ・マネーのコール・オプションを売るデリバティブです。原資産よりも権利行使価格が高く設定されています。
S&P500のカバードコール戦略を行う【XYLD】と少し似ています。ただし、こちらはアット・ザ・マネーなので、原資産と権利行使価格が同じです。
【JEPI】は基本的にELNでインカムゲインを狙い、大型株の部分でキャピタルゲインを狙う、いいところどりのETFとも言えます。
【JEPI】のセクター比率は?
【JEPI】に組み込まれている銘柄のセクター別の組込比率で、金融と情報技術が13.1%と多く、以下ヘルスケア、生活必需品、資本財と続きます。上位5セクターは似たような比率です。ELN(Equity Linked Note)は12.8%です。
【JEPI】は米国大型株(主にS&P500)の中から低ボラティリティ銘柄を組み込みます。右の円グラフ、S&P500ETF【SPY】と比較すると、【JEPI】は情報技術セクターの比率が低く、資本財と生活必需品が多めです。
情報技術セクターはボラティリティの大きい銘柄が多く、資本財や生活必需品セクターは株価の安定した連続増配銘柄が多いので、このようなセクター比率になったと言えそうです。
【JEPI】の上位組込銘柄は?
【JEPI】に組み込まれているエクイティ・リンク・ノート(ELN)です。S&P500に連動した仕組債で、全部で15銘柄あり、合計比率は12.8%です。1つ前の右側の円グラフの黒い部分です。
これまでは15%前後ありましたが、今月は少ないですね。
エクイティ・リンク・ノートの満期日は1週間ごとに設定されています。複数のエクイティ・リンク・ノートを持つことで、満期日が1週間ごとにずれるようにして、ロールコストを最小限に抑えることができます。
これにより、コントランゴ現象(期日が遠い先物価格の方が、期日が近い先物価格よりも価格が高い状態のため、高く買って安く売ることになる)を回避し、JEPIの目的である高い分配金を実現することが可能となっているようです。
株式の上位組込銘柄は?
下の表は【JEPI】に組み込まれている株式の上位10銘柄です。全組込銘柄数が134で、上位10銘柄の比率は15.4%なので、まずまず分散されています。
上位組込銘柄はどう変化したのか?
【JEPI】の上位組込銘柄の推移です。ELNなどは含まず、株式のみです。2021年10月は情報技術、一般消費財セクターが上位で目立っていましたが、最近は生活必需品、ヘルスケアが多かったですが、今月は情報技術の比率が増えました。
ELNとは利率(クーポンレート)はどのくらいか?
下の表はJPモルガンアセットマネジメントの公式資料に記載されている内容です。
【ELN】の発行体はカナダ・ロイヤル銀行、BNPパリバ、UBS、シティグループ、バークレイズなど世界的な金融機関ばかりです。償還日が1週ずつずれています。
赤線を引いたところが、ELNのクーポンレート(いわゆる利率)です。2022年9月末は70%台が多く、分配金は0.5ドルを超えることが多かったです。2023年3月は50%台が目立ちます。最近の分配金は0.4ドル台に減っているのは、このクーポンレートが下がっているからと言えそうです。
運用総額の変化は?
【JEPI】の運用総額の変化です。1ドル142円で計算すると、【JEPI】は約4.2兆円(29.4ビリオン$)増えています。売れ行きはかなり好調です。
ライバルETFとデータを比較する
【JEPI】とライバルETFのトータルリターンを比較します。S&P500カバードコールETF【XYLD】、ナスダック100カバードコールETF【QYLD】、ラッセル2000カバードコールETF【RYLD】と比べました。さらに高配当ETFの代表格【VYM】、S&P500ETF【VOO】とも比較します。
【JEPI】が設定されたのが2020年5月なので、2020年8月から2023年7月末までの3年を比べます。PORTFOLIO VISUALIZERを使用します。
株価推移を比較
まずは3年間の株価推移を比較します。
2020年7月に1万ドルを投資した場合、2023年7月の株価は【VOO】が1万4000ドル、【VYM】が1万3500ドル、【JEPI】は1万500ドルで3番目の成績でした。
トータルリターン推移を比較
分配金を再投資した場合のトータルリターンの推移です。税金や手数料は考慮しません。
2020年8月に1万ドルを投資した場合、2023年7月には【VYM】が1万4900ドル、【VOO】が1万4600ドル、【JEPI】は1万3800ドルでした。
3年のトータルリターンは、【VYM】と【VOO】がわずかにリード、【JEPI】は3番目ですが、株価リターンよりは差が詰まっています。
過去のトータルリターン
1年、2年、3年のトータルリターン(年率)の比較です。1年あたりのリターンのことで、幾何平均のCAGR(Compound Annual Growth Rate/年平均成長率)で計算します。
この中では【JEPI】の成績は高いレベルで安定しています。3年は11.5%で、【VYM】【VOO】に次ぐ3番手。2年は4.7%で【VYM】の次に成績がよく、1年は8.1%で【VOO】【QYLD】に次ぐ3番手です。
ETFの安定度は?
ETFの安定度などを比べてみましょう。「ボラティリティ」は株価の変動性です。「最大下落率」はマイナスの数値が小さいほど安定しています。どちらの値も0に近いほど安定していると言えます。
【JEPI】はボラティリティは12.0%で2番目に小さく、最大下落率はマイナス13.0%でマイナスの数値がもっとも低いです。この中では安定しています。
シャープレシオは?
続いて、シャープレシオとソルティノレシオをチェックしましょう。シャープレシオは同じリスクを取った場合のリターンで、投資効率の良さを数値化したものです。ソルティノレシオはシャープレシオの改良版で、相場が軟調の際のデータで、下落局面での強さを示しています。
シャープレシオやソルティノレシオともに【JEPI】が最も素晴らしく、【VYM】が続いています。ただし、過去3年と短い期間のデータなので、最近好調かどうかという意味が大きいです。
3年前に購入した場合の年間分配金は?
2023年8月に1万ドル投資して分配金を再投資した場合の年間でもらえる分配金の推移です。分配金は再投資します。税金は考慮しません。
3年間の分配金の合計は【RYLD】が3700ドル、【QYLD】が3200ドル、【XYLD】が3100ドル、【JEPI】が2700ドルでした。【JEPI】の分配金は2022年は素晴らしかったですが、2021年の分配金は今ひとつだったので、他のカバードコールETFよりは少ないです。
今後20年間でYOCはどのくらいになるのか?
最後に、今【JEPI】を購入したら、将来の利回り(YOC)がどのくらいになるかをシミュレーションします。
【JEPI】は増配銘柄ではありません。分配金額は不安定で予想するのが難しいです。そこで、分配金利回り12%、11%、10%、9%、8%の5パターンで検証します。いずれも分配金に変化がなかった場合で検証します。
「分配金は再投資する、税引き後(28%引かれる)、株価は変化しない」という設定にします。
分配金利回り12%が続き、再投資し続けると、20年目のYOCは41.7%になります。
分配金利回り11%が続き、再投資し続けると、20年目のYOCは33.7%になります。
分配金利回り10%が続き、再投資し続けると、20年目のYOCは27.0%になります。
分配金利回り9%が続き、再投資し続けると、20年目のYOCは21.4%になります。
分配金利回り8%が続き、再投資し続けると、20年目のYOCは16.7%になります。
もっとも分配金利回りの低い8%でも、再投資し続ければ、20年目のYOCは税引き後で16.7%と、なかなか高いですね。
カバードコール系ETFの将来は未知数ですが、似たような額の分配金が続き、再投資し続ければ、かなりの複利効果を得ることができそうです。
まとめ
【JEPI】の2023年8月分配金は0.2904ドルで、先月より減りました。【VIX】(ボラティリティ)が低迷しているのが気になりますね。ただし8月に入ってからは上昇しています。
最近ELNのクーポンレートが下がっているので、分配金が減っている可能性があります。ここ半年ほどは不調が続いています。
ライバルは、S&P500をカバードコールする【XYLD】です。株価推移やトータルリターンは【JEPI】が上回っています。
【RYLD】や【QYLD】と比較しても、トータルリターンは【JEPI】が優れていました。
経費率が0.35%と低いですね。【QYLD】【XYLD】などグローバルX社のカバードコールETFは0.6%なので、良心的です。これが売れている理由とも言えそうです。